してみんとてするなり

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【ネタバレ】プロメアにみる〇〇


あんまりにも勧められたんで初めて観にいきましたプロメア。

映画を通して至る所に要素が散りばめられていたし主要なテーマはたぶん「差別」だよね。


どんな「差別」の要素があったのかというと、最初はガロたちバーニングレスキューのメンバーがなんか名前の長いピザを食べてるシーン。私が覚えている限り、当事者がいないと思い込んだ上での差別発言、一部の迷惑な奴がいるから全体が差別されるというガロの言葉、バーニッシュが焼いたと知った瞬間な今まで食べてたピザを気持ち悪いと言い始める客の描写などがそれに当たると思う。バーニッシュを「全く迷惑だ」という店主の発言に同調したガロは、きっとその場に当事者=バーニッシュがいるなんて思いもしなかっただろう。(観ているときはこのクソ店主…と思ったが、バーニッシュを匿うためのカモフラなら気持ちはわかる…けど結果的に再生産しとるんやなぁ…)

私も、一度そういう場に出くわしたことがある。不特定多数に読まれる可能性のあるここでは詳細は何も言えないし言わないが、案外当事者は普通にいて、でも色々な事情でクローズにしていることも多い。その場で話を合わせるためにした軽率な発言が、クローズの当事者を傷つけることだって十分にある。それとは逆に、そこで反論・抗議したことが当事者の救いになることだってあると思う。



それから、逃げてきたバーニッシュがたむろしている洞窟のシーン。

「バーニッシュでも食べるのか」に対するリオ、すごい顔してたけど当然だろ。食べる権利まで奪う気か?私は食べるの大好きだからこんなん言われたらガチギレしてしまう…

ガロはリオに対して、炎を我慢すれば普通=マジョリティになれるのだからそうしろと言った。たぶんガロは善意から発言しているんだけど、それが怖いしもっと怖いのは現実でこういう例をよく聞くこと。アイデンティティや意思など本人を構成している全てを無視した傲慢な言葉だと思うけどこの類の発言はよく耳にする。差別の原因を、迫害する方ではなくされる方に押し付ける。ピザ屋の「迷惑な一部が、全体が差別される原因をつくっている」という発言もそうで、バーニッシュに差別の原因があるようか口振り。大人しくマジョリティに従って生きておけという意識が透けて見える。


どこのシーンか忘れたけど、リオがガチ切れ暴走して炎の龍になってるあたりだったと思う。仲間を連れ去られた上に酷い人体実験をされてたら本気で怒るのは当然だと思いますが。そんなリオに対して、「(人を殺さないという)バーニッシュの誇りはどうした」とマジョリティであるガロが言ってしまう暴力性。いやいやそこまで追い詰めたのは誰だよ…と思ってしまった。


それから、マイノリティの分断を象徴するのはやっぱりバーニッシュのジジイとクレイ・フォーサイトだと思う。仲間のバーニッシュを売ったジジイは結局自分もヴァルカン大佐に捕まり、プロメテックエンジンの燃料として利用される。いくら仲間を売ったところで、非バーニッシュとは認められない。

クレイもまた、マジョリティから認められることで自分を保っているように思える。

ふたりは、自分は他のやつらと違って賢く立ち回れている、あんなやつらと一緒にしないでくれ、と思っているのかもしれない。

ちょうど「名誉アーリア人」や「名誉男性」という呼称で呼ばれるマイノリティのように、マジョリティに迎合することで自分は差別される側ではないと言い聞かせている。「自分は他のバーニッシュとは違うとでも言うのか」というクレイに向けたリオの台詞はそのことを示唆しているのではないか。


ラストがやや不満。と思ったら他に書いてる人いたし割愛。やっぱりバーニッシュも普通の人間になりました!というのはもやるね…………。


最後に触れておきたいのはヴァルカン大佐。彼は非バーニッシュで、戦闘に強い男性である。口調や性格も荒々しく、イグニスやガロにも絡んでいく。しかし、普段の屈強な身体はギアであり装備が一度脱げてしまえば、本来の小さくて非力そうな身体を晒すことになる。つまり、マジョリティであった彼は、一瞬でマイノリティ変化してしまう。人間は誰しもある場面ではマジョリティであり、ある場面ではマイノリティでもありうるといった多面性を象徴するのがヴァルカン大佐だと思った。



〈以下はクレイ・フォーサイト語り〉

クレイ・フォーサイトが一番好きですね。こんな声してたらそりゃ首も太くなるわ…。めちゃめちゃ優しそうな顔をした人間が実は極悪人みたいなパターンが大好きなので、非常によかった。今まで優しかったクレイの旦那が「こんな馬鹿でも騒がれると面倒だ」と豹変した挙句ガロを牢にぶち込むところは何度でも観たい。あの吐き捨てるような声。

マジで穏やかなときとガチ切れしてるときの声のギャップが良かった。

リオ「悪魔め…」

クレイ「救世主だよ、人類のォ!」

この場面めちゃめちゃすき。きゅうせいしゅだよォ!!の声が最高。

でも正直、クレイがどういう人間なのかまだよく理解できていない。ガロへの愛情は本当に1ミリもなかったのかとか、博士を殺したのはただの名誉欲だったのかそれともマジョリティに承認されたかったのか、パルナッソス計画を達成して「救世主」になることでマジョリティから認められたかったのかとか他にも分からないことだらけなのでスピンオフを期待したい。